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東京地方裁判所 昭和43年(ヲ)2344号 決定

申立人 扶桑興業株式会社 相手方 樋渡利彦

主文

東京地方裁判所執行官が、債権者扶桑興業株式会社債務者樋渡利彦間の同裁判所昭和四三年(ヨ)第一六三七号仮処分申請事件についての仮処分決定正本に基づく執行を同年四月二三日停止した行為は、これを許さない。

申立費用は相手方の負担とする。

理由

本件異議申立の趣旨およびその理由の要旨は、別紙のとおりである。

本件記録によれば、申立の理由(一)(二)の事実が認められる。

まず、執行方法に関する異議についての決定に対して即時抗告が提起できるかどうかの問題があるが、この点はしばらくおき、民事訴訟法第五五八条に規定する執行法上の即時抗告について、同法第四一八条第一項の適用があるかどうかを考えてみるのに、右規定の沿革と同法第六八〇条第三項の存在などをあわせ考えると、右第四一八条第一項は、大正一五年法律第六一号による民事訴訟法の改正の分野(強制執行編は含まれない)に属する即時抗告のみを対象としていると解されるから、執行法上の即時抗告には執行停止の効力がないと解するのが相当であり、同法第四一八条第二項の裁判を得て同法第五五〇条所定の手続がとられた場合に限り執行を停止することができ、即時抗告提起の事実の証明書が提出されただけで執行を停止すべきではないと解すべきである。

したがつて、前記認定のように、東京地方裁判所執行官が、執行方法に関する異議についての決定に対する即時抗告にも当然執行停止の効力があるとして、即時抗告提起証明書が提示されただけで執行を停止したことは、違法というほかない。

よつて、本件異議申立を認容し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小笠原昭夫)

(別紙)

一 申立の趣旨

主文と同旨。

二 申立の理由

(一) 申立人は、相手方を債務者とする「債務者の別紙物件目録〈省略〉の建物に対する占有を解いて、東京地方裁判所執行官に保管させる。執行官は、債権者にその使用を許さなければならない。ただし、この場合においては、執行官は、その保管に係ることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。」との申立の趣旨記載の債務名義の債権者である。

(二) 申立人は、昭和四三年三月一二日右債務名義に基づき東京地方裁判所執行官に執行の申立をしたところ、執行官は、同一物件につき同年二月二日申立外佐野武子を債権者、相手方を債務者とする執行官保管、債務者使用の仮処分決定がなされ、翌三日執行ずみであり、前記仮処分を執行することはこれと牴触するから執行できないとして執行申立を拒絶した。そこで、申立人は、執行官の右措置について、東京地方裁判所に対し執行の方法に関する異議を申し立てた(東京地方裁判所昭和四三年(ヲ)第一四七二号)ところ、同裁判所は、同年三月二二日「東京地方裁判所執行官は、債権者扶桑興業株式会社、債務者を樋渡利彦間の同裁判所昭和四三年(ヨ)第一六三七号不動産仮処分申請事件の仮処分決定につき執行をせよ。」との決定をしたので、執行官は翌二三日右執行に着手したが、まだ債務者を目的物件から退去させるに至らないまま同年四月一九日執行官小国清秀、同職務代行者菅原康久の両名が続行執行に着手したところ、相手方の使用人志岐僖三郎、安斎貞夫の両名が前記東京地方裁判所昭和四三年(ヲ)第一四七二号仮処分執行方法に関する異議申立事件についての決定に対し即時抗告が提起された旨の昭和四三年三月二五日付東京高等裁判所の証明書を提示し、かつ、その写しを提出したので、右執行官らは執行を中止し、さらに、同年四月二三日右即時抗告には執行停止の効力があるものとして執行停止の措置をとつた。

(三) しかしながら、同執行官らの右措置は違法である。すなわち、

(1)  まず、前記執行方法に関する異議についての裁判に対する即時抗告のみで執行停止の効力を有するものではない。すなわち執行の続行を許す内容の裁判に対しては、民事訴訟法第四一八条第二項の仮の処分を命ずる裁判を得てこれを同法第五五〇条所定の書面として提出しなければ執行を停止すべきではないのであつて、いわゆる即時抗告の提起証明書の提出があつたからといつて執行を停止すべきではない。

(2)  かりに、右即時抗告に執行停止の効力があるとしても、即時抗告の提起証明の正本を受理したときにはじめて停止の措置をとりうるのに、写しが提出されただけで執行停止の措置をとつたのは誤りといわなければならない。

(四) よつて、本件異議申立に及んだ。

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